吉とは

吉とは、何でしょうか? めでたいこと。幸せなこと。大吉の吉。自分の氏名や、お住まいの地域にある地名にある吉。十人十色で、人それぞれ色々な想いがあることと存じます。では、歴史のなかで、吉はどのような意味をもっていたのでしょうか? こちらのページでは、各時代の国語辞書等をたよりに、吉とは何であるかについて、触れていきたいと思います。

1.昭和時代の吉の意味

広辞林』 金沢庄三郎 編 昭和9年(1934年)(国立国会図書館オンライン)
昭和時代、国語辞典の『広辞林』(こうじりん)に、『吉』の意味は次のように記されておりました。

吉(きち):よき事。めでたきこと。凶の對。
吉(よし):よろこぶべし。いはふべし。(吉、嘉)。

2.大正時代の吉の意味

大日本国語辞典. 第1巻あ〜き』 上田万年, 松井簡治 著 大正4年(1915年)(国立国会図書館オンライン)

大正時代、国語辞典の『大日本国語辞典. 第1巻あ〜き』(だいにほんこくごじてん)に、『吉』の意味は次のように記されておりました。


吉(きつ):よきこと。めでたきこと。きち。(凶の對)


大日本国語辞典. 第4巻に〜ん』 上田万年, 松井簡治 著 大正8年(1919年)(国立国会図書館オンライン)

大正時代、国語辞典の『大日本国語辞典. 第4巻に〜ん』(だいにほんこくごじてん)に、『吉』の意味は次のように記されておりました。


吉(よし):めでたし。祝ふべし。吉なり。慶すべし。縁起よし。

吉(よし):幸ひなり。幸運なり。(例:そなた達もよかれかしと思うての事ぢゃ 『狂言 昆布布施』)


辞海』 郁文社 編 大正3年(1914年)(国立国会図書館オンライン)

大正時代、国語辞書の『辞海』(じかい)に、『吉』の意味は次のように記されておりました。


吉(きち):易の語。運のよきこと。めでたきこと。凶の對。

吉(よし):慶ぶべし。祝ふべし。吉。嘉。


3.明治時代の吉の意味

国書辞典』 落合直文 著 明治35年12月(1902年)(国立国会図書館オンライン)

明治時代、国語辞典の『国書辞典』(こくしょじてん)に、『吉』の意味は次のように記されておりました。


吉(きち)に:吉。よきかたに、また、利あるかたにの意か。平家「きちについて、彼方へまゐり。此方へ參らむとす」

吉(よし):喜ぶべし。祝ふべし。「よき日」吉。嘉。


言海:日本辞書.第1-4冊』 大槻文彦 編 明治22年ー24年(1889年ー1891年)(国立国会図書館オンライン)

明治時代、国語辞書の『言海』(げんかい)に、『吉』の意味は次のように記されておりました。


吉(きち):易ノ語、運命ノ吉(ヨ)キコト。(凶ニ對ス)

吉(よし):祝フベシ。慶(ヨロコ)ブベクアリ。(凶(ア)シ、ノ反)


4.江戸時代の吉の意味

倭訓栞. [31]』 谷川士清 纂 文政13年(1830年)(国立国会図書館オンライン)

江戸時代の中期、国学者の谷川士清(たにかわことすが)が著した国語辞典の『倭訓栞』(わくんのしおり)は、徳川時代の二大辞書の一つといわれております。(『倭訓栞』と『雅言集覧』は、徳川時代の辞書の双璧ともいわれております。)


その『倭訓栞』に、『吉』の意味は次のように記されておりました。


よし:善美愛好良能なとをよめり。(中略)やほによし、あをによし、ますけよし、あさもよしなとのよしは、其物を『よ』と呼ひ出す詞にして、『し』は助けのみなりといへり。萬葉集に眞菅吉と書けるを日本紀にはますげと見えたり。吉ノ字を書けるに泥(なづ)むべからず。又よは哉の義。はしきやしを日本紀にはしきよしと見えたり。


(大意:善美愛好良能などを、よしと読みます。(中略)八百丹よし、青丹よし、真菅よし、麻裳よし等のよしは、間投助詞です。『万葉集』では『真菅吉』と書かれていますが、『日本書紀』では「ますげ」と見えます。吉の字を書くのに悩んではいけません。また、は哉(かな:感動・詠嘆を表す。~だなぁ)の意味です。『愛やし』について、『日本書紀』では『愛よし』と見えます。)


雅言集覧 13巻. [7]』 石川雅望 集[他] (国立国会図書館オンライン)
江戸時代の後期、国学者の石川雅望(いしかわまさもち、1753-1830)が著した古語用例集の『雅言集覧』(がげんしゅうらん)は、徳川時代の二大辞書の一つといわれております。(『倭訓栞』と『雅言集覧』は、徳川時代の辞書の双璧ともいわれております。)

その『雅言集覧』に、『よし』等の意味は次のように記されておりました。

・よし:善
・よき:善
・よきひ:吉日也。(例文、『源氏物語』あげまき 卅五:廿六日ひがんのはてにて、よき日なりければ  訳:『源氏物語』総角 三十五:二十六日、彼岸の終わりの日で、吉日だったので)

俚言集覧. 下 明治33 に−を』 村田了阿 編[他] 明治32年ー33年(1899年ー1900年) (国立国会図書館オンライン)
江戸時代の後期の漢学者、太田全斎(おおたぜんさい、1759-1829)が著して、明治32年ー33年に刊行された国語辞書の『俚言集覧』(りげんしゅうらん)に、『よし』の意味は次のように記されておりました。

・よし:善也 由也 (中略) 吉嘉ハ祝ふへきをいふ。
・よし:佳も、休も、祥も、良も、(中略)、美も、善も、令も、吉も、能も、よし也。(中略)吉ハ相かわらぬ也。

吉を辿る物語 上 [電子書籍版]

著者:水瀬希星


はじめまして、こちらのホームページの製作者で作家の水瀬希星です。


この度、楽天ブックス様の電子書籍より、吉の字の歴史をテーマにした本、『吉を辿る物語 上』を上梓させていただきました。


吉と𠮷とは?」、「吉と𠮷の歴史とは?」について、明治時代の尋常小学校の『小学読本』や明治政府の『官報』、『日本書紀』、『万葉集』、『源氏物語』、歌川広重の浮世絵の『東海道五拾三次』、十返舎一九の『道中膝栗毛』、曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』、『関ヶ原合戦絵巻』、江戸時代の地図、戦国時代のカレンダーなど、100以上の古書や古文書に記された吉と𠮷の字をめぐる本になっております。


主人公は、17歳の男子高校生二人で、歴史上の様々な吉と𠮷について触れていく冒険読本です。


吉を辿る物語 上』では、昭和時代から戦国時代までの吉と𠮷の歴史を、愛でていただけます。

(下巻の『吉を辿る物語 下』では、日本の室町時代から古墳時代まで、そして古代中国を予定して、現在執筆しております。)


吉と𠮷の歴史につきまして、ご興味がございましたら、ぜひ御手にとって、近代、近世、中世の吉と𠮷をご鑑賞して愛でて頂ければ、この上ない幸せです。


無料のお試し読みもございますので、ぜひ、どうぞ。


令和三年、夏、葵月

水瀬希星